どういうものが誹謗中傷になるのか?
インターネットの利用人口は、平成23年度末時点で約9600万人超といわれ、日本国民のほとんどすべてがインターネットを利用していると言っても過言ではありません。
そうした状況下で、インターネットはその匿名性や情報発信の容易さから、個人の名誉を傷つけたり、差別を助長したりする表現等、人権に関わる様々な問題が発生しています。
誹謗中傷に関する書込みは、当事者の心を深く傷つけるものであり、内容によっては名誉毀損等に当たるものもあります。
誹謗中傷についてはさまざまな解釈やそれぞれの案件での状況の違いがあるため、ひとくくりにはいえませんが、以下に相談事例の多い2つの事例を挙げてみたいと思います。
1つ目の事例
たとえば、インターネット上の掲示板に、ある人物を特定できる記事を書き込んだ上で、「職場で迷惑な存在である」などと誹謗中傷する書き込みがされている。
この場合は、インターネット上の名誉毀損にあたります。
こうした相談が法務局に持ち込まれた場合、法務局が調査し、該当する書き込みが個人攻撃であり、特定の人物の名誉を毀損すると認めると、法務局からこうした誹謗中傷の記載のあるサイトの管理者に対して削除要請を行います。
法務省の人権擁護機関では、名誉毀損やプライバシー侵害等に当たる書込みをされた被害者に対して、サイト管理者に削除要請をする方法をアドバイスしているほか、被害者自らが行うことが困難であると認められる場合、代わりに削除要請を行っています。
ただし、法務局では裁判などは考えず、とにかく書込みを削除したいという場合は自分で削除要請をすることを原則としています。
法務局が対応してくれるのは、名誉毀損やプライバシー侵害など一定のものに限られるので、削除依頼の相談があった場合でも、必ずしも全部について対応してもらえるわけではありません。
2011年に法務局が名誉毀損やプライバシー侵害にあたると判断したのは624件で、法務局ではそのうち559件で削除要請の方法などを被害者にアドバイスし、62件で法務局が直接削除を要請したと発表されています。
2つ目の事例
インターネット上の掲示板に自己の氏名や年齢とともに、過去の職業歴や勤務状況等の様子が書き込まれ、当人が精神的な苦痛を被っている場合。
これはインターネット上のプライバシー侵害に該当します。
法務局が調査した結果、当該掲示板の情報は、被害者のプライバシーを侵害すると認めた場合、法務局から掲示板上の削除依頼フォームにより掲示板管理者に対して削除要請を行います。
こうした依頼をしても削除されない場合は、改めて今度は掲示板のプロバイダに対して削除要請を行います。
ただし、法務局が行う削除要請は命令ではありません。法務局から削除要請をしても全く対応しないサイトや掲示板、及びプロバイダも存在します。
2008年の資料では、515件のうち75件について、法務局はプロバイダー(接続業者)らに削除を求めたが16件は拒否されたと発表されています。
また、法務局から削除要請を行った場合、サイトによっては法務局が削除要請をした旨が掲示板に記載されるなどして、それを批判する書込みが新たに集中することもあり、そうなると、削除要請をする以前にも増して多くの書込みがされるといった二次的被害が発生する最悪の事態も考えられます。
ゆえにこうしたことも踏まえて、法務局は相談者が最終的にどういう対応を望むのかをきちんと話し合った上で最終的な判断を決定しています。
ここで紹介した2つの事例が現在のところもっとも相談事例で多いもので、「名前や住所、電話番号やメールアドレス、及び顔写真」などの個人情報がさらされる、いわゆるプライバシー侵害、次いで「異性関係がだらしない」などと書き込む誹謗中傷の名誉棄損が相談件数の多くを占めています。
インターネット上の掲示板で誹謗中傷を受けたなどとする相談事例は、全国の法務局に寄せられたものだけで2012年は3903件、2011年は3113件、警察庁の委託先の民間団体「インターネット・ホットラインセンター(IHC)」が受けた通報は2010年が1287件となっており、年々増加の一途をたどっているのが現状です。